ドイツのパティシエ事情③|修行を締めくくる卒業試験(ゲゼレンプリューフング)の全貌

ドイツのパティシエ事情③「卒業試験」 ドイツのパティシエ事情
ドイツのパティシエ事情③「卒業試験」
スポンサーリンク

お菓子職人を目指す独自の修行制度「アウスビルドゥング」
前回の記事では、日々の学校生活や職場選びの注意点についてお話ししました。

「3年間の長い修行が終わるとき、どんな卒業試験があるんだろう?」
「ドイツ語での筆記試験や、2日間にわたる実技試験ってやっぱり難しいのかな…」

店と学校を行き来するハードな3年間を終えると、いよいよ最終関門である卒業試験(Gesellenprüfung:ゲゼレンプリューフング)が待っています。

これに合格して初めて、公的に一人前のお菓子職人としてスタートを切ることができます。

約10年前、デュッセルドルフで試験に挑みました。緊張しながらも、根拠のない自信だけはありました。

今回は、当時の記憶を紐解きながら、筆記・実技試験の具体的な内容や、試験前に忘れてはいけない大切な注意点についてお話ししていきます。

ドイツのパティシエ事情のバックナンバーはこちらです!
▶ [ドイツのパティシエ事情シリーズ一覧はこちら]

この記事では、

  • 試験を受ける前に欠かせない「3年分必要」なあのノートの重要性
  • 実際に出題された、バウムクーヘンをテーマにした筆記試験のリアル
  • 2日かけて自分の考えたテーマに挑んだ、実技試験の具体的な中身と合格ライン

についてよくわかります。ぜひ最後まで読んでみてくださいね!

【辞書には載っていない?菓子職人専門用語100選】

ドイツで働き始めるとき、最初に大きな壁になると感じるのが、やはり「言葉」です。

特に、語学学校でも習わず、辞書にも載っていない専門用語に戸惑う場面が多いのではないでしょうか。

そこで、これまで現地でドイツ人の同僚たちと働く中で覚えてきた、「本当に毎日使うリアルなドイツ語」を100個まとめました。

これからドイツの現場に飛び込む方や、言葉のやり取りで心が折れそうになっている方の、小さな支えになれたら嬉しいです。

長い修行の集大成!試験の前に立ちはだかる「最後の宿題」

3年間の長い日々を終え、いよいよ卒業が見えてきても、最後まで気は抜けません。

試験の申し込み手続きや受験料の支払いは、基本的に学校と職場がすべて段取りを組んで負担してくれますが、自分自身で完璧に終わらせておかなければならない「最重要の仕事」がひとつあります。

それが、前回の記事でも少し触れた「Berichtsheft(ベリヒツヘフト=活動ノート)」です。

これは毎週、自分がどんな業務を行い、どんなレシピを学んだかを書き留める業務日誌のようなもの。何が恐ろしいかというと、この3年分の記入とお店の責任者のサインが完全に揃っていないと、そもそも試験を受けることすら認められないのです。

実は、日々の忙しさに追われて溜め込んでしまう人が結構います。

試験直前になって「数ヶ月分書いていませんでした!」と白状し、まとめてサインを求めてシェフに激怒された同級生もいましたね。

毎週同じような作業が続くことも多いため、書く内容を見つけるだけでも地味に大変なのですが、未来の自分のためにコツコツ書いておくのが一番の安全策です。

ランダムなテーマに苦戦?筆記試験のリアルな中身

基本的には、まず筆記試験から先に行われます。

地域によって異なると思いますが、試験を受けたのは通っていた学校でした。
1日で3つの科目をまとめて受験しました。

10年以上前の記憶なので少しうろ覚えな部分もありますが、内容は数学、経済学、栄養学、そして衛生学などが入り混じった、お菓子職人の実務に直結する専門的な問題とその他の問題がミックスされた感じでした。

面白いのが、毎年「特定のお菓子」がランダムでテーマに選ばれ、そこから芋づる式に問題が出題される点です。当時、自分が受験したときのテーマは、「バウムクーヘン(Baumkuchen)」でした。

具体的には、以下のような問題がずらりと並んでいました。

  • バウムクーヘンの典型的な原材料を述べよ
  • 伝統的な製造工程(焼き方など)を説明せよ
  • 保存・保管する際の適切な注意事項は何か
  • (計算問題)この配合で仕込んだ場合、何%の調理損失(水分蒸発など)が出るか。その場合、最終的に何グラムの製品ができあがるか
  • (経済問題)この原材料費から算出される、適切な店頭販売価格を述べよ

ドイツのお菓子といえばバウムクーヘンというイメージが日本にはありますが、実は現地の一般的なパン屋さんやカフェでバウムクーヘンを日常的に焼いているお店は少ないです。

そのため、試験後に同級生たちが「なんで作ったこともないバウムクーヘンがテーマなんだ!」と怒っていたのを覚えています。

※テーマは毎年変わり、レープクーヘンやシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ(黒い森のケーキ)などが選ばれることもあります。

▶ [本場の味をおうちで!シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテの解説記事はこちら]

その他には、職人の雇用システムに関する問題や、ドイツの経済制度の基礎についての出題がありましたね。

2日間の戦い!自分でテーマを考えて挑んだ実技試験

筆記試験を終えると、次はいよいよ最大の山場である「実技試験」です。

大抵はHandwerkskammer(ハンドヴェルクスカンマー=手工業商工会議所)という、街の技術職の訓練を統括している専用の施設で受験することになります。

ここはアウスビルドゥングの期間中にも何度か足を運び、お店の通常業務ではなかなか学べない「飴細工」や「チョコレート細工」の特別講習を受けた、思い出深い場所でもあります。

実技試験は2日間にわたり、1日目8時間・2日目4時間というたっぷりとした時間をかけて行われました。

作らなくてはいけない課題のメニューは事前に知らされているため、制限時間内にどう組み立てるか、自分で「全体のテーマ」を決めてデコレーションをあらかじめ設計していきます。

当時、提出しなければならない課題は以下のようなラインナップでした。

  1. 3段の大型ケーキ(飴細工、またはチョコレート細工の華やかなデコレーション付き)
  2. 4種類のボンボンショコラ
  3. 3種類の焼き菓子・クッキー(フィリングを詰めたもの)
  4. 2種類のマジパン細工
  5. 1種類の皿盛りデザート(2種類の一風変わった飾り付けで)

※こちらも州や地区によって異なり、キッシュやクロワッサンといった、よりパン寄りの課題が出る地域もあるようです。

周囲の同級生たちは「チェス」や「エジプトの歴史」「天国と地獄」といった、大人っぽくアーティスティックなテーマを選んでいましたが、

私は「ジブリ」をテーマに選びました!マジパンで一生懸命トトロを作ったりしたのですが、審査員の中にたまたまジブリ作品を知っているドイツ人の方がいて、「トトロだね!」とすごく驚いて喜んでくれたのがとても嬉しかったです(笑)。

結果発表と合格ライン|もし落ちてしまったら?

実技試験の結果はその場ですぐに合否を言い渡され、筆記試験の結果は約1ヶ月後に自宅に書類が届きます。

ドイツの学校や試験の成績は、日本とは逆で「1が最高評価(優)で、6が最低評価(不可)」という仕組みになっています。

合格ラインは「4」以下。点数に換算すると、100点満点のうち50点以上を取れば合格となります。

しっかりと日々の学校と職場での経験を積み、事前の準備をしていればそれほど恐れる必要はありません。当時は、落第してしまった人はいませんでした。

合格すると、Gesellenbrief(ゲゼレンブリーフ=技能職の職人免状・卒業証書)という書類が授与され、この日をもって晴れて公的にお菓子職人(コンディトア)としてのスタートラインに立つことができます。

▶ [コンディトアとパティシエの職場の違いについて詳しく書いた記事はこちら]

⚠️ もし試験に落ちてしまった場合は?

万が一、不合格になってしまった場合も、半年後に行われる次の試験に再挑戦することができます。

再受験するのは「落ちてしまった試験だけ」で良いため、例えば「実技は受かったけれど、筆記だけ落としてしまった」という場合は、半年後に筆記試験だけを受け直せば大丈夫です。

ただし、チャンスは最初の1回を含めて「合計3回まで」。3回すべて落ちてしまうと、それ以上受けることはできなくなってしまうため、再試験の際はみんなかなり必死に勉強し直します。

まとめ:異国の地での挑戦が、一生の財産になる

今回は、ドイツでお菓子職人になるための最後のステップである「卒業試験」のリアルな舞台裏をお届けしました。

日本の専門学校の試験とは異なり、2日間にわたる実技や、現地の経済・法律にまで踏み込む筆記試験など、ドイツならではの手工業の伝統と泥臭さが詰まったシステムです。

最初はドイツ語での授業や日誌に戸惑うこともたくさんありますが、自分でテーマを決めてお菓子を創り上げ、最後に合格の証書を受け取ったときの達成感は、何にも変え難い一生の財産になります。

もし、これから本場ドイツの地で職人を目指したいと考えている方がいらっしゃったら、このリアルな体験が少しでも心の準備や優しいエールになれたら嬉しいです。

──おうちのキッチンに、本場ドイツの確かな技術を

​motomone bakingでは、ブログの無料記事に加えて、より深いお菓子・パン作りを楽しみたい方に向けた「有料レシピ集(PDF版・解説動画付き)」を販売しています。

レシピの分量だけでなく、実際に何度もキッチンで試して見つけた細かなコツや、失敗を防ぐための見極め方まで丁寧にまとめました。​無料記事と有料レシピ集の違いは、以下の通りです。

無料ブログでできること有料レシピ集で得られること
・おうちで気軽に試せるレシピ
・全体の流れがわかる丁寧な手順
・失敗を防ぐための「見極めポイント
・ひと目でわかる解説動画付き
・キッチンで見ながら作れる印刷用PDF

決済には安心・安全なシステム(StripeGumroad)を利用しており、購入手続き完了後はその場ですぐにご覧いただけます。混ぜ方のタイミングや生地の固さに迷わず、自信を持って美味しいパンやお菓子を焼き上げたい方は、ぜひ以下のリンクからお好きなレシピを見つけてみてくださいね。


コメント